環境プロジェクト

健康に良い建材を求める

2019 年 9 月
現代的なオフィスビル内部の長い廊下。

答えの出ない疑問を抱くことは、エンジニアの性分といってもよいでしょう。好奇心が美徳とされる Google のエンジニアであればなおさらです。Google の創業間もないころ、小型の粒子計数器を手にオフィスを歩き回っていた共同創設者ラリー ペイジは、矢継ぎ早にさまざまな疑問を抱きました。

私たちが吸っている空気には何が含まれているのだろう?それらは健康にどう影響するのだろう?それらはなぜオフィスに存在するのだろう?オフィスで毎日さらされている汚染物質について、私たちはどれだけ知っているのだろう?

この好奇心には十分な根拠があります。一般的な建築資材に使われる化学物質の多くは、癌、内分泌疾患、不妊、神経学的疾患、アレルギー、ぜんそくなどにつながる恐れが指摘されています。しかもこれらの化学物質は、環境内に浸出して何十年にもわたって残留します。こうした化学物質が生態系を破壊し、それを取り巻くコミュニティの長期的な健康を脅かしているのです。

私たちはほとんどの場合、どんな物質にさらされているかさえ知らずに過ごしています。欧州環境機関がまとめたデータによれば、2016 年に EU で消費された化学物質総量のおよそ 62% が、人々の健康に有害な物質でした1

この問題は、簡単に解決できるように思われます。もっと健康に良い建材を使って、健康に良い建物を建てればよいのです。しかし、どの建材が健康に良いか判断するための情報がない場合、どこから手を付けたらよいのでしょうか。建材市場は透明性に欠け、健康に及ぼす影響の調査も最低限しか行われていないのが現状です。ほとんどの人は、情報に基づいて判断するためのデータすら手に入れることができません。

そこで Google が始めた取り組みが「健康に良い建材プログラム」です。このプログラムは、一般的な建材とそれらに使用されている化学物質の安全性についての情報ギャップを埋めることを目的としています。まさに、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」という Google の使命に沿った取り組みといえます。

さらに、このプログラムがより安全な化学物質、より健康に良い建材へと、市場を向かわせる推進力になればと考えています。そのためには、建築関連の基準を活用して建材の成分についての透明性を高めるとともに、建材の選定において予算や手に入りやすさと同じくらい「安全性」が重要であることを、Google の購買力を活かして市場に伝えていく必要があります。

「世界はこれまで 100 年もの間、建築資材に何が含まれているかを知らずにいたのです」そう語るのは、Google 不動産 / 職場サービスのサステナビリティ プログラム チームリード、ロビン バスです。「科学が進歩を続け、健康に関わる新たな問題が絶え間なく発生している今、より透明性の高い効果的な方法でメーカーと協力し、製品にどんな化学物質が含まれていて、それらが人間や地球にどう影響するのかを理解する必要があるのです」

Google は今年、これまでの成功とその過程で得た教訓を糧として、「健康に良い建材プログラム」を重点的に展開しています。

「健康に良い建材プログラム」の最優先課題は、有害な化学物質を Google のすべての施設から排除することです。
「健康に良い建材プログラム」の最優先課題は、有害な化学物質を Google のすべての施設から排除することです。

平坦ではなかった道のり

この問題に取り組み始めたとき、建材についての情報は直接メーカーに問い合わせれば簡単に集まるだろうと高をくくっていました。

しかし蓋を開けてみると、ほとんどのメーカーは建材に含まれている化学物質について十分把握しておらず、それらが人間や環境にとって安全かどうかについてもあまり意識していないようでした。加えて、サプライ チェーンはますます複雑化しており、原材料まで遡って調査することも簡単ではありませんでした。

健康に良い建材に向けた動きを作り出すためには、もっと効果的な方法でメーカーと協力する必要がありました。そこで Google は 2016 年、Healthy Building Network と共同で、業界初の試みとなる建築資材データベース「Portico」を構築しました。

Portico は、データを効率よく収集するために設計されたデータベースで、業界標準を活用して情報を開示し透明性を高める仕組みになっています。まず、建築士が使用したい建材を Portico データベースに入力します。その建材がすでに Portico に登録されている場合は、既存の記録、透明性と安全性のスコア、排出される揮発性有機化合物のスコアが表示されます。入力した建材が登録されていない場合は、Portico からメーカーに情報を求めるリクエストが送信されます。これまで時間をかけて手作業でやっていた情報収集を Portico によって自動化することで、業界全体として健康に良い建材の普及に取り組めるのではないかと期待に胸を膨らませていました。

この Portico を少しずつ対象を拡げながら 2 年ほど運用しましたが、市場にはこれを上回る動きがあることが明らかになりました。[Health Product Declarations](https://www.hpd-collaborative.org/)、DeclareCradle to Cradle といった業界標準に対応するツールが現れてきていたのです。これらの標準は、メーカーが発行する難解な化学物質報告書を読み解く必要がなく、市場からの支持を得ていました。

さらに、Portico の限界も見えてきました。「建材業界が、Portico からの自動アンケートに対応できる状況にありませんでした。」そう語るのは、Google の「健康に良い建材プログラム」でマネージャーを務めるサラ シダーバーグです。「まずは、個人的な関係と信頼を築く必要がありました。」建材メーカーや建設会社も、Portico のアンケートに対応するだけの時間的余裕がありませんでした。厳しい工期の中、サプライ チェーンを遡って建材に含まれる化学物質を特定するのはたやすいことではありません。

Portico は、最終的には「健康に良い建材プログラム」の中で大きな役割を担うことになりましたが、当初期待していたような特効薬とはなりませんでした。しかし、「より健康に良い建材を」という Google の取り組みが業界内での議論を巻き起こし、市場が未来へと進むための業界標準の策定、幅広いツールやデータベースの構築へとつながりました。

バスは次のように語っています。「イノベーションが起きるときというのはこういうものです。現状を打破し、業界が追いつくのを待つ。それによって、前に進むための新しい方法が見つかるのです」

Google 関連施設の建設プロジェクトでは、2016 年から 2018 年にかけて運用した Portico データベースが健康に良い建材の情報収集に役立ちました。
Google 関連施設の建設プロジェクトでは、2016 年から 2018 年にかけて運用した Portico データベースが健康に良い建材の情報収集に役立ちました。

焦点を絞って前に進む 2018 年、Portico を無理に活用しようとするのではなく、一度立ち止まって考えることにしました。バスは言います。「これまでに学んだことを整理して、次の段階に進むために Portico の利点をどう活かすかを見極める必要がありました。」

私たちは、この問題にもっと謙虚に取り組むことにしました。非常に難しい課題であることは間違いありません。長年続いてきたプロセス、システム、慣習を変える必要があるのです。持続的な機運を作り出すためには、一歩ずつ着実に歩みを進めなければなりません。

シダーバーグが中心となって立ち上げた新しいプログラムでは、Portico で構築した「健康に良い建材」の膨大な情報をどう活用するかに焦点を絞ることにしました。まずは、Google で働く人々のすぐ近くに使われている建材、ほとんどの Google プロジェクトで使われることが確認できた建材、製造から廃棄に至る過程を通じて健康に良いと証明されている建材を、最重要カテゴリとしてまとめ優先することにしました。このカテゴリの多くを占めるのが、塗料、カーペット、弾力性のある床材、天井タイル、断熱材、石膏ボードなどの内装建材です。

まずはこれらの建材に取り組み、その手法を他の建材に応用することにしたのです。

新たに、Google プロジェクトに使用する建材のコストと量について報告を義務付けることで、どのような効果が得られるかを全社一丸となって追跡しようとしています。こうして収集した情報に基づくことで、将来の目標を設定したり、Google が真剣に取り組んでいることを行動で示したりすることができるようになりました。

さらに、建築プロジェクトのプロセス全体への「健康に良い建材プログラム」の統合も進めています。手法の合理化をさらに進めて、健康に良い建材を設計段階から指定し、建築段階で実際に購入し、完成後には期待どおりの結果が得られているかを追跡できるようにしたいと考えています。

Google 社員のすぐそばで使われている塗料、タイル、天井タイル、床材などを、健康に良い建材にすることに優先的に取り組むことにしました。
Google 社員のすぐそばで使われている塗料、タイル、天井タイル、床材などを、健康に良い建材にすることに優先的に取り組むことにしました。

Google は、世界中で取り組んでいる大規模な建築プロジェクトにもこの新しい手法を活用しています。その一例が、カリフォルニア州マウンテンビューにまもなく完成するチャールストン イースト コンプレックスです。完成すれば、LBC(Living Building Challenge) の Materials Petal 認証を受けた過去最大の施設となります。人間や環境に健康被害をもたらす最も危険なレベルの化学物質をまとめた LBC のレッドリスト に照らして、使用するすべての建材を厳しく吟味しました。

この取り組みをさらに拡げるため、今後この手法を進化させ、健康に良い施設を建設する際に Google が活用している情報(建材のカテゴリ、メーカー、標準など)を共有していくことにしています。Google が目標としているのは、これまでに学んだこと、これから学ぶことを活用し続け、他の企業が独自の「健康に良い建材プログラム」を展開する機運を作り出すことです。

最終的には、より安全な化学物質、より健康に良い建材が持続可能な開発の基盤となり、常に再生と復元を繰り返す循環経済の拡がりにつながるものと確信しています。製品に含まれる化学物質は、一度この世に出てしまえば変更を加えることが難しくなります。つまり、使用されている物質が人間にも地球にも安全だとしっかり確認することが、建材を効率よく最適に使用するための基本なのです。

多くの方が、この取り組みについてもっと詳しく知りたいと言ってくださいます。何を参照すればよいか、シダーバーグに聞いてみました。「一般向けのリソースとして最初におすすめできるのが、Healthy Building Network の HomeFree サイトです。幅広い建材の一般的な化学物質問題について分析し、それらの物質の危険度をわかりやすくランク付けしています。」

Google としては、建材メーカーや建設会社だけでなく、消費者、プロジェクトの責任者、建設業者、建築家などすべての人々にこの取り組みにご参加いただき、安全な化学物質と健康に良い建材の利用を共に促進していただければと願っています。

「健康に良い建材が、世界中のホームセンターのすべての棚に並ぶようにするには、何千もの企業が私たちと同じように行動する必要があります」とバスは語ります。「健康に良い建材を求める人が増えるほど、大きな変化を起こすことができるはずです」

1「Consumption of Hazardous Chemicals」、European Environment Agency、2018 年 11 月 29 日、https://www.eea.europa.eu/airs/2018/environment-and-health/production-of-hazardous-chemicals.