責任あるサプライ チェーン プロジェクト

アルミニウムの錬金術: 新しいリサイクル合金を使用した先駆的な Google プロダクト

2021 年 1 月
Pixel のエンクロージャーをリサイクル素材で製造する段階を示す画像

Google Pixel 5 は、使う人すべての期待に応えるために Google がお届けする最新のスマートフォンです。スタイリッシュで確かな作りのボディー。これまでの Google Pixel と同等の信頼性を維持しつつ 5G にも対応しました。デザイン、手触り、機能、すべてにおいて Google スマートフォンのあるべき姿が具現化されています。

ただし、Google Pixel 5 には決定的な違いがひとつあります。本体背面内部のエンクロージャーに、100% リサイクルのアルミニウム(二次合金)が使われている点です。一次アルミニウムを使用しないことで、廃棄される資源を減らすことができるだけでなく、エンクロージャー製造時の二酸化炭素排出量を、一次アルミニウムを使用した場合と比べて 35% 低減することもできます。

新しい素材を使用してもスマートフォンのパフォーマンスが低下していないという事実から、Google のデザイン エンジニア、環境エンジニア、ビジネス ストラテジストたちが、今回の移行にどれだけ懸命に取り組んだかがわかります。彼らはこの移行プロセスにおいて、パフォーマンスを犠牲にすることなく、新しいリサイクル素材を開発し、Google のサプライ チェーンに新たな慣行を取り入れました。彼らの尽力により、「2022 年までに、すべての Made by Google プロダクトにリサイクル素材を使用する」という目標に向けて大きな一歩を踏み出すこともできました。

Google がこのような目標を掲げたのは、企業として限られた資源を最大限に再利用して価値を創出することで、サーキュラー エコノミーへの移行をさらに加速させたいと考えたからです。サーキュラー エコノミーへの移行は、社会や環境に良い影響を与えるだけでなく、2030 年までに新たに 4.5 兆ドルの経済生産を生み出すと推定されています1。Google の役割は、リサイクル アルミニウム プロジェクトのような取り組みを通じて、よりサーキュラーな Google を構築することから始まると確信しています。

アルミニウム サプライ チェーン関係を再検討する

「Pixel 5 が環境に及ぼす影響を軽減する方法を探るため、まずは旧型の Pixel 3 のライフサイクル評価から始めることにしました。」そう語るのは、Google のコンシューマー ハードウェア グループで環境フットプリント リードを務めるジュリー ラポポートです。「その結果、Pixel 3 のアルミニウム エンクロージャーが、二酸化炭素排出量に最も影響を及ぼしていたことがわかったのです。その要因の大部分は、採鉱されたボーキサイトからアルミニウムを作る際に必要な電力でした。」

一方で、リサイクル アルミニウムの製造には、それほど多くのエネルギーは必要ありません。二酸化炭素排出量の算出において、製品からの排出量としてカウントが始まるのは、そのリサイクル原料が再処理業者の手に渡ってからです。「鉱石から金属を取り出すには相当なエネルギーが必要になります。」ラポポートは言います。「すでに金属になっているものを溶かして違う形にするだけなら、より少ないエネルギーで済むのです。」

リサイクル アルミニウムを使うことが決まったら、次は安定的に供給できる業者を探す必要があります。しかし、これが思ったほど簡単ではありませんでした。エレクトロニクス関連のサプライ チェーンの多くでは、原材料の供給業者と製品メーカーの間にはかなり距離があります。

「このプログラムでは、サプライ チェーンのもっと上流まで遡ってアルミニウムの供給源を探し、前例のない新しいタイプの取引について交渉する必要がありました。」そう説明してくれたのは、Google でグローバル戦略のパートナーシップと関係構築の責任者を務めるデヴィッド トノッティです。

交渉の結果、複数のリサイクル アルミニウムの供給業者と契約を結び、現在と将来の需要を満たすのに十分な量を確保することができました。

リサイクル合金の新しい仕様を作成する

「需要を満たす供給量を確保できたので、次はリサイクル アルミニウムが素材レベル、パーツレベル、システムレベルで機能することを証明する必要がありました。」そう語るのはラポポートです。

こうした細かい点を見極めるためには、他の Google チームにも参加してもらう必要があります。

エンジニア、プロダクト デザイナー、プロジェクト マネージャー、サステナビリティ リードなど、さまざまな関係者にリサイクル アルミニウムを安心して使用するための条件を尋ね、その結果を素材の技術要件、環境要件、業務要件、事業要件に分けて一覧にしました。

Google の冶金エンジニア、ジンソー キムは、化学面の問題解決に当たりました。彼のチームは、さまざまな種類と等級のリサイクル アルミニウム合金の化学組成を研究し、製造過程で等級を落とすことなく、Google の性能基準を満たす最適な合金化元素の組み合わせを探しました。

Pixel 5 だけでなく他のプロジェクト用にも、100% リサイクル アルミニウムの新しい仕様を作成しました。仕様には、Google プロダクトに使用するリサイクル アルミニウムが含有すべき各種の合金化元素とその分量、そして最終的な合金が満たすべき技術性能が詳細に記されています。Pixel 5 に採用されている仕様は、今回新たに作成した 6 種類の 100% リサイクル合金仕様のひとつです。

新しい 100% リサイクル合金で作られた Google Pixel 5 デバイスの画像
Pixel 5 で初めて採用された 100% リサイクル合金は、一次アルミニウムと同等の強度、被削性、信頼性、審美性能を持つ。

次に、リサイクル素材を徹底的に検査、検証し、機能面で一次アルミニウムと遜色ないことを確認しました。

2021 年からは、Google に原材料を供給する業者に、Google のリサイクル アルミニウムを家電業界に供給できる体制を整えることが義務付けられます。これにより、家電メーカーが希望すれば 100% リサイクル アルミニウムを使用できるようになります。「上げ潮がすべての船を持ち上げるように、全体の底上げを目指すのが Google の基本原則です。」そう語るのは、あらゆる Google プロダクトでのリサイクル素材の利用を推進しているエンジニアリング マネージャー、ジョン ゴッドストンです。

そしてついに証明できました。

「工場で生産しているものが自分の視界から消えた後、それがどうなったかを正確に把握できるとは限りません。」トノッティは言います。「我々としては、約束どおりのものを確実に手に入れなければなりませんでした。」

そこで、サードパーティの認証機関 UL Environment に協力を仰いでアルミニウムのリサイクル プロセスを検証し、サプライ チェーン全体にわたって加工流通過程を管理できる体制を整えることにしました。「一分の隙もないプロセスが不可欠です。」ゴッドストンは言います。「アルミニウム供給業者から部品メーカー、最終製品に至るまで、加工流通過程全体を監査しました。」

アルミニウム供給業者の段階で、リサイクル アルミニウムのインゴット(地金の棒)にそれぞれ刻印を入れることで、その正当性を確認できるようにしました。

それ以降は、Google プロダクト向けにこれらの新しい合金を購入することを、部品メーカーとの契約締結の条件としました。「Google は、より積極的にプロセスに関与するようになっています。」ゴッドストンは言います。「Google と取引のある原材料供給業者や部品メーカーには、Google の原材料仕様はもちろん、構造図にあるその他すべての仕様に従うことを契約で義務付けています。Google がサプライ チェーン関係に、より大きな影響を及ぼすようになっているということです。」

Google Pixel 5 のデバイス背面の画像
本体背面に 100% リサイクルのアルミニウムを使用することで、エンクロージャー製造時の二酸化炭素排出量を 35% 低減できる。

次のステップ

Pixel 5 は、100% リサイクル アルミニウムを採用し、今最も注目を集めている Google プロダクトです。Google としては、今後もこうしたプロダクトを増やしていく予定です。「製品に特定の等級のアルミニウムを使用する場合は、常に 100% リサイクル アルミニウムで代替できないか積極的に検討しています。」ゴットストンは言います。「現時点ですでに、いくつかのプロダクト カテゴリで話を進めています。」

このプロセスにおいて不可欠なのが、新たに作成したリサイクル仕様です。「Google プロダクトのデザイナーが、二酸化炭素排出量が少なく、より環境に優しい原材料を選択できるようにしたいのです。」ラポポートは言います。「そのために彼らに提供しているのが、同等の強度、被削性、信頼性、審美性能を持つリサイクル アルミニウム部品を比較検討できるツールです。」

その結果は、チームにとって満足のいくものでした。プロセス自体にやりがいがありますし、既成概念の枠を超えようとするとき、お互いに力を合わせることで何が可能になるのかもわかりました。

「全員で協力して取り組むというのは初めてだったんです。」トノッティは言います。「すばらしいチームを作ることができました。こうしたプロジェクトを、今後もっと増やしていきたいと考えています。」

1 Peter Lacy and Jakob Rutqvist, Waste to Wealth: The Circular Economy Advantage(富の無駄遣い: サーキュラー エコノミーの利点), 2015