環境プロジェクト

Earth Engine で森林破壊の現状を示す地図を作成

2016 年 12 月
データセンターの壁の前に立つ技術者。

Google のエンジニア、レベッカ ムーアが、サンタクルーズ山地(米国カリフォルニア州)にある自宅付近の森林伐採計画について知ったのは、2005 年のことでした。郵送で届いた通知には粒子の粗いモノクロの地図が同封されていましたが、その伐採計画がどのような問題をもたらすのか、その地図から読み解くことはまったくできませんでした。不満に思った彼女は、Google Earth の 3D 衛星画像に計画の詳細を反映させて、新しい地図を作成しました。そして、このビジュアル化によって明らかになった問題は、1,000 エーカーの森林伐採が進められようとしており、水やアメリカ杉の原生林が脅威にさらされるということでした。また、狭く、見通しの悪いカーブもある山道を通学する子どもたちのすぐそばを、木材を運搬するトラックが通過することも判明しました。

この地図をきっかけとして、地域住民の活動が高まり、計画についての綿密な調査が始まりました。そしてついには、カリフォルニア州森林局がこの計画案を不適格と判断するまでに至ったのです。この地域で勝ち取った成功を大きなステップとして、ムーアと Google Earth チームはより大きな課題への挑戦に踏み出しました。1 つの地域への影響をこれほど迅速かつ強力にビジュアル化できるのならば、地球全体で高解像度の地図を作成し、森林の変化を監視することも可能なのではないか、と考えたのです。

緑の風景の航空写真

それは、2013 年以前では不可能なことでした。自然保護活動家たちは長年、森林破壊に対する世の中の関心を高めたいと強く願い、努力を重ねてきました。しかし、森林破壊を引き起こす要因は複雑で、情報は正確性に欠け、十分でなく、最新でないものが多かったのです。NASA の衛星から数十年にわたって森林地域の画像が撮影されてはいましたが、データは解像度が低く、地球全体での整合性もありませんでした。また、画像を表示するために必要なハードウェアは、そのデータを最も必要とする熱帯地域の国々や活動団体などには手に入らないものでした。

欠けていたのは、多くの技術的リソースを必要とせずに、誰でも画像を利用できるプラットフォームでした。その欠けていたピースが埋められたのは、2009 年、デンマークのコペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約第 15 回締約国会議(COP15)でのことでした。ムーアのチームが Google Earth Engine を初公開したのです。それは、Google のデータ、ストレージ、コンピューティングの能力を活用して、長い間手の届かなかった NASA の画像のような地球規模のデータセットを解析し、「森林の変化を一瞬でビジュアル化」できるプロトタイプでした。1

この画期的な技術に注目したのが、メリーランド大学でリモート センシングを研究する科学者で、今ではプロジェクトの主要な協力者であるマット ハンセン氏でした。地球表面の地図は、Google が関わるまで、ほとんどが「不鮮明で大雑把な画像」でしかなかった、とハンセン氏は振り返ります。2 Earth Engine プロトタイプの可能性に興味を引かれた彼は、Google のエンジニア チームと協力し、壮大な土地でプラットフォームをテストすることにしました。対象地域にはメキシコを選びました。同時に、Google Earth Outreach も立ち上げました。こうして、メキシコ全体の森林地図が完成しました。解像度 30 メートルの画像は、従来のあらゆる地図と比べて 1,000 倍も鮮明でした。それ以来チームは、地球全体の地図を何としてでも作成しなければならないと考えるようになりました。

南米の衛星写真
2014 年のアマゾンの森林消失を示す Global Forest Watch のインターフェース

実現の鍵を握るのはクラウドでした。地球上のすべての土地の高解像度地図を作成するには、ペタバイト規模のデータ処理が必要となります。とても 1 台のマシンの計算能力では対応しきれません。地球の森林地図を作成するため、Earth Engine はクラウドベース サーバーのネットワークを活用し、並列で稼働する 10,000 台のコンピュータで 65 万枚の画像を処理しました。3 1 台のコンピュータなら 15 年はかかる処理をEarth Engine はわずか数日で完了しました。「実行中、Google では照明を落としました」とムーアは語ります。4

この結果は地理科学にとって画期的な出来事でした。メリーランド大学と Google によるこのデータセットは、地球規模の森林の変化を包括的に示した初めての高解像度地図でした。2013 年、査読のある学術雑誌「Science」でその論文が掲載されると、その系統的なマッピング技術に対して「世界の生態系にとってのヒトゲノム プロジェクトだ」5 と称賛の声が上がりました。

地球の森林地図を作成するため、Earth Engine はクラウドベース サーバーのネットワークを活用し、10,000 台のコンピュータを並列稼働させ、65 万枚の画像を処理しました。1 台のコンピュータなら 15 年はかかったでしょう。

プロトタイプの発表以来、Earth Engine チームは熱帯諸国に無料の森林監視システムを提供しようと取り組んできました。6 その使命を着実に実現するため、世界資源研究所(WRI)が組織するネットワーク Global Forest Watch(GFW)と提携しました。世界中の森林伐採活動に関する GFW の豊富なデータを加えて、より堅牢なプラットフォームを構築した結果、マダガスカル、西アフリカ諸国、東南アジアのメコン地域、南アメリカのグランチャコ地域など、これまであまり注目されていなかった地域でも森林破壊が急速に進んでいることが、地図によって明らかになりました。また、2012 年にはインドネシアがブラジルを抜いて、世界で最も熱帯雨林の破壊が進んでいたことが明らかになり、保護活動家たちを驚かせました。

GFW は気候に関する重要な国際会議でこうした分析情報を報告するとともに、影響を受ける地域を積極的に監視、調査し、直接連携して問題に取り組んでいます。たとえば、United Cacao などの企業に持続可能性に配慮する責任があることを理解してもらったり、フィリピンのマングローブ林保護法案や、インドネシアの不法な森林火災に対処する(ASEAN の)煙害に関する条約など、森林に配慮した法律の制定を支援したりしています。

GFW の最大の武器はそのスピードです。クラウド コンピューティングの活用によって、GFW のデータは極めて速いペースで最新の状態に更新され、継続的な処理によって、ほぼリアルタイムで地図が作成されています。2016 年、GFW は森林喪失の最新情報をタイムリーに提供する、GLAD(Global Land Analysis & Discovery)アラートの運用を開始しました。現在は数か所のテスト地域で実施していますが、今後は、世界中の湿潤熱帯地域の森林に範囲を拡大する予定です。GLAD アラートによって、これまで発見までに何年もかかっていた森林破壊が、わずか数週間で可視化されるようになったのです。こうしたデータの鮮度と、狭い土地での農作業すら検出できる解像度を利用すれば、森林管理者や法の執行機関が、危機に瀕している森林を守れるようになるかもしれません。

globalforestwatch.org

1http://blog.google.org/2009/12/earth-engine-powered-by-google.html

2http://america.aljazeera.com/articles/2013/11/14/scientists-googlecreatehighresmapofchangesinworldsforests.html

3プロトタイプの画像はランドサット衛星の 12 年間の画像から生成しました。最初の地図は 2000~2012 年の森林を追跡したものです。(Earth Engine に含まれている)ランドサットの完全なカタログでは 40 年以上の画像を扱っています。

4http://www.nytimes.com/2013/11/15/science/earth/new-interactive-tool-helps-track-earths-forests.html?_r=0

5http://www.nytimes.com/2013/11/15/science/earth/new-interactive-tool-helps-track-earths-forests.html?_r=0

6http://blog.google.org/2009/12/earth-engine-powered-by-google.html